表具師紹介

表具に込められたさまざまな思いを
技を凝らして、次の時代に託す。

当主 表具師 西田 隼一郎

ひとつとして同じものはない

明治の終わりころに、曽祖父である初代が創業して以来、弊店では掛軸をはじめとした表具の仕事をしています。新調品の作成とともに、重要な仕事のひとつが歴史ある表具の修復です。
依頼主の方からお預かりする表具は、寺宝として地域の人々の信仰の対象となっていたり、芸術品として多くの人に鑑賞されていたりと、いろいろな役割を担っています。
表装する書画に使われている、和紙、墨、絵具の性質はひとつとして同じものはなく、書画が経てきた時間の長さもそれぞれ異なります。また、自然由来の資材を用いる表具は気候の影響を受けやすく、例えば北海道と九州とでは経年変化に差が生じ、展示や保管がされる方法や場所によっても劣化の仕方は違ってきます。

自分の眼で確かめ、思いを聞く

表具は、そのすべてが掛け替えのないものであり、しかも生き続けています。表具の修復に最善を尽くすためには、それがどのような環境でどういう状態にあるのかを、自分の眼で確かめる必要があります。また、依頼主の方がどのような思いで修復を望まれているのかについて、詳しくお聞きする過程も重要になります。
弊店では日本全国からのご依頼に対して、現地へ出向くことを作業の基本としています。そして、それぞれの表具に合わせて最適な処置を施した後も、定期的な手入れを欠かさないことで表具のトータル・ケアを実現しています。これは先代たちが、表具師の仕事は表具を常に健全な状態に保ち、次の時代に託すことだと考えていたからです。

先人たちの熱意に報いる

日々作業をしていると、さまざまなことに気付かされます。戦時中に仕立てられた表具からは、物資不足というハンデを知恵で克服しようとした当時の職人の意気込みを感じることがあります。その一方、時代が豊かになると、技術が不確かになっているように思えることがあります。
弊店の基本スタンスは、先人の苦心や熱意に報い、あるいは不確かな技術を確かなものへと更新することによって表具を現代によみがえらせることです。これは、どんなに時代が変わろうとも崩してはならない自分たちのアイデンティティだと、先代が言い続けていたことです。
京都の表具店には日本全国から、クオリティの高さが求められる依頼が寄せられます。その期待に応えるためには、先代から受け継いだ技を磨くだけではなく、時代とともに変わる技術や資材を取り入れることが大切だと考えています。事実、修復に関する技術や資材の進化は目覚ましく、経年変化を防ぐための技術などが開発され、それが国宝や重要文化財に使われています。このような新しい動きを伝統的なやり方と融合させることが、現代の職人の責務であり、掛け替えのない表具を次の時代につなぐ最善の方法ではないかと考えています。

表具との出会いは「一期一会」

時折、初代が百余年前に手掛けた表具をお預かりすることがあります。その修復を通して感じるのは、「初代は百年後の職人に負けない気持ちで、仕事に取り組んでいたのだろう」ということです。先代である父も、二代目である祖父も、きっと同じ姿勢だったと思います。
丁寧に修復された表具は、数十年から百年は持つといわれています。表具との出会いは、まさに「一期一会」です。自分の仕事が百年先の職人に「よい仕事」と言われるよう、一つひとつの表具に全身全霊で向き合っていきたいと思います。